D.C.Ⅱ 二次創作ショートストーリー バレンタインSP ~白河ななか編~「バレンタインすぺしゃる」

ジリリリリ――カチッ!

「ふぁふ~……」

朝。俺はいつもより早くに起床した。
今日は、音姉も由夢も起こしに来ない。
音姉は生徒会で由夢は保健委員の当番で、
朝早くに家を出ると昨日言っていたからだ。
ちなみに俺も、今日はバンドの朝練があるので、
早くに出るつもりだった。

「さ~てと、起きるか…って寒っ」

布団から出ると冬の寒さが肌をさした。
俺はさっさとリビングに下りる事にした。

「さてと、朝飯作るかな」

そう呟いて俺は朝食の用意をした。

朝食を食べ終わると、俺は芳乃家の玄関の鍵を閉めて外へと出た。
そのまま、学校へ向かって歩いていると後ろから声を掛けられた。

「義之く~ん♪」
「義之ぃ~」
「ななかに…小恋?」

振り返ると、ななかと小恋がこちらに向かって走って来る所だった。

「おはよ~♪義之くん♪」
「義之、おはよ~」
「ふたりともおはよう…今日は、バンドの朝練だな」
「うん♪」
「そうだね」
「今日は、何を練習するんだっけ?」
「え~と…”まぶしくてみえない”と”桜笑み君思う”だよね?ななか」
「うん!そうだよ♪」
「そっか…じゃ―――」

それから俺達は学校に着くまで、バンドの事について少し話しながら歩いた。

昼休み。
俺は、パンを買いに行こうと席を立つと珍しく小恋が学食に誘って来たので、
俺も学食で食べる事にした。

学食を食べ終わると、ちょっと渡したいものがあると言って、
昼休みの音楽室へと連れて行かれた。

「あれ?小恋…と義之くん?」
「よっ、ななか」
「ななか!どうしたの?」
「ん~と…ちょっと歌の練習してたの」
「そうなんだ…」
「小恋は…って、ん?…なるほど♪」
「えっ!?な、なんでもないよ?」
「あやしいなぁ~…その紙袋は何かな~?」

小恋の明らかな動揺にななかが悪戯っぽく微笑む。

「これは…な、なんでもないよぉ~」
「ふふ♪じゃあ、私は別の場所で練習してくるからごゆっくり~♪」

そう言ってななかは音楽室を出て行った。

「もぉ~…ななかってば~…」
「何だったんだ?一体…」
「あ、あはは…さあ?良く分からないよ」

小恋が気まずそうな笑みを浮かべて笑っていた。

「そうだ。ところで、さっき渡したいものがあるって言ってたけど…」
「あ、うん…これなんだけど…」

小恋が先程の紙袋の中身を取り出し、俺に渡してくる。

「あ!そうか…今日って、バレンタインだったっけ?」
「うん…私は手作りのチョコチップのクッキーなんだけど…受け取ってくれる?」
「あぁ、ありがとう…小恋」
「うん」
「………」
「………」

その後の微妙な空気に耐えられなくて、俺は話題を変える事にした。

「と、ところで!今日の俺のギターどうだった?」
「えっ?うん…良かったと思うよ?」
「そっか…良かった。それで―――」

それから、予鈴が鳴るまで俺と小恋はバンドの事について話し合った。

放課後。今日は、ドラムの渉が後輩の女子に告白し玉砕した為、
バンドの練習は休みとなった。捨て台詞は…

「ちくしょぉぉぉ~~~!!バレンタインなんて嫌いだぁぁぁ~~~!!」

…だった。
俺は、朝練の時の自分の演奏に気に食わない部分があったので、
放課後残って練習する事にした。

ジャンジャジャン、ジャン、ジャン…

1人だけの音楽室に、ギターの音が響き渡る。

ジャンッ、ジャンッ、ジャ~~~ン!

しばらく、演奏に没頭していた俺は教室内にいつの間にかもう1人いた事に
気付かなかった。

「ふう…」
「ぱちぱちぱち~♪やっぱり義之くんだね♪」
「な、ななか!いつからそこに居たんだ?」
「サビの辺りからかな?義之くん、集中していたみたいだから」
「声掛けてくれれば、良かったのに…」
「う~ん…最初はそうしようかと思ったんだけど…見とれちゃって♪」
「か、からかうなよ~」
「ホントだよ♪ギター弾いている義之くん、カッコ良かったよ♪」
「あ、あはは…何だか恥ずかしいな…」

俺は赤くなりながら、頬をポリポリと掻いた。
そんな俺の手を取って、ななかは上目遣いで俺を除き見た。

「義之くん?」
「な、なに?」

ななかの仕草が可愛くて俺はドキドキしてしまった。
ななかは友達としてこういう行動を取る事が多いから、
期待しないようにはしているんだけど…今回のはキツイな…。

「小恋とは付き合う事になったの?」
「えっ?あ、ううん…そんな事は無いけど…」
「そっか…」
「どうしたんだ?ななか」
「………」
「ななか?」

ななかのいつもと違う様子に俺も戸惑いを隠せないでいる。
そのまま数分経って、先に沈黙を破ったのはななかだった。

「義之くんは…付き合いたいと思っている女の子が居たらどうするのかな?」
「えっ?急にどうしたんだ?」
「何となく…何となく聞きたくなっちゃって」
「う~ん…その子次第だとは思うけど…気持ちには真剣に答えたいと思う…かな?」
「そっか…じゃあ、私も頑張っちゃおうかな…義之くん、これからちょっと付き合ってくれる?」
「えっ?良いけど…こんな時間に何処に行くんだ?」
「あははっ♪秘密だよ♪」

そう言ってななかと連れ立って、学校を後にする事にした。

しばらく歩いていくと、見慣れた場所に来ていた。

「ここは…桜公園?」
「うん♪ちょっと義之くんに、来てもらいたい場所があってね…良いかな?」

上目遣いで確認を取られる。それ…反則だよな。
もちろん断れるはずもなく、俺は直ぐに了承の答えをする。

「ここまで来たんだから、今更帰るなんて事しないよ」
「良かった♪それじゃ、もう少しだから」
「うん、じゃあ、そこに案内してくれるかな?」
「は~い♪それじゃぁ~…れっつご~♪」

目的の場所には、数分掛からずに着く事が出来た。
桜公園の中心に位置する、桜の大木の前に俺達は来ていた。
ななかは、大木の幹まで歩いて行くと、
幹に背を預けた形で、こちらに振り返った。

「………」
「………」
「………」

ななかは、俯きながらしばし無言でいたが、決心したように
こちらに顔を向けた。
ななかの表情は、期待と不安が入り混じったようなそんな感じだった。

「義之くん…私…義之くんの事好き!最初は、小恋の友達として好きだったけど…」
「………」
「義之くんの頑張る姿や、優しい所を知るたびに”好き”っていう気持ちが大きくなって…」
「………」
「抑えられなく…なっちゃった…」
「………」
「だから…だから私と…付き合って…くれません…か?」
「………」

俺はびっくりしたが、ななかの唇に添えた手とその唇が震えている事に気付いた。
不安でも一生懸命に自分の気持ちを伝えてくれたななかに俺は真剣に答えた。

「ななか…」
「あっ…」

ななかの手を握り、俺は、自分の持つなるべく優しい表情を浮かべて言葉を紡ぐ。
ななかは、不安そうな目で俺の答えを待っている。

「俺も…俺も実はななかの事が気になっていたんだ」
「えっ!?」

ななかの目が信じられないといった様なものに変わる。
しかし、俺は構わず続けた。

「正直な話…最初は、俺も学園のアイドルで遠い存在だと思っていたんだ」
「………」
「だけど、小恋の知り合いと知り、バンドを引き受けてから毎日一緒になって…」
「………」
「そして”白河ななか”という女の子を知ることが出来て…」
「………」
「そんな中で、段々ななかの行動や仕草を意識するようになっていったんだ」
「………」
「だから…俺の方こそ…よろしくお願いします!」

ななかの手を握りながら、俺は頭を下げる。

ポタッ、ポタッ。

俺の手の上に何か熱いものが落ちてきた。
俺は顔を上げると、ななかが…泣いていた。
女の子を泣かせたという事実に俺は焦った。

「えっ!?その、俺何か悪い事言ったかな!?」
「違う…違うの…私…嬉しくって…」
「そっか…」

そう言って俺はななかが泣き止むまでその細い体を抱きしめ続けた。

数分後、嗚咽の収まったななかの目は真っ赤だったが、
その顔にはとびっきりの笑顔が浮かんでいた。

「えへへ♪」
「な、泣き止んだ?」
「うん♪」
「良かった…俺、どうしようかと思ったよ…」
「あはは♪ごめんね?」
「謝らなくても良いって」
「うん♪…あっ、そうだ!義之くんにちょっと聞いて欲しい歌があるの」
「えっ?」
「聴いてくれる…かな?」
「うん。わかった」

そういうとななかは、俺の知らない歌を歌い始めた。

「♪キミの~声が~聴こえただけで~」
「………」
「♪私は~いつでも~元気になれるの~」
「………」
「♪だから~いつも~側にいてね~」
「………」
「♪私の~大切なキミ~大好きだよ~」
「………」

俺が呆気に取られていると、ななかが悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。

「以上、義之くんだけに送るななかのすぺしゃるライブでした~♪」
「あ、あはは…何だか恥ずかしいけど…嬉しかったよ」

歌っているななかは、夕日の差すこの場所で何よりも輝いていて、
俺は思わず抱きしめた。

「よ、義之くん?」

ななかは、びっくりしたようだけど、抵抗はしなかった。
だから、俺はこの愛しい彼女をもっと感じたくて…

「キス…していいかな?」
「うん…私もしたいな…」

そして、俺達は夕日の桜の下で、キスを交わした。
この時間が永遠に続く事を願いながら…

Fin.

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