由夢「おかえりなさい、兄さん!」
私は、泣きながら兄さんに抱きついた。兄さんは、そんな私を優しく抱き止めてくれた。
義之「どうした由夢?泣いたりなんかして」
由夢「兄さんが泣かせたの!もぅ、寂しかったんだから…」
義之「ごめんな?これからはずっと側にいれると思うから、もう泣くな…な?」
由夢「兄さんの…バカ…」
しばらく泣いて落ち着いて来た頃、私は兄さんに訪ねた。
由夢「……どうして戻ってこれたの?私はもう二度と会えないと思っていたのに…」
義之「う~ん…それが俺にも分からないんだ…気が付いたらあの大きな桜の木の根元に立っていたんだよ」
由夢「そうなんだ…でも、本当に良かった…」
そう言って兄さんの胸に顔を擦り付ける。そうすると、久し振りに兄さんの匂いを感じる事が出来た。
義之「ちょっ、由夢っ、やめろ!みんな見てるって!」
由夢「ヤです♪兄さんが悪いんだから我慢して下さい♪」
義之「いや、それはそうなんだけど…恥ずかしいから!」
由夢「ふふっ♪私を泣かせた罰です…覚悟して下さい」
義之「まったく…由夢には敵わないな…」
由夢「え?あっ…」
その言葉の後、兄さんは私をギュッと抱きしめた。私は不意を付かれ、思わず赤面してしまった。
義之「どうした?由夢」
由夢「もぅ…ずるいよ兄さんは…」
義之「ん?何か言ったか?」
由夢「な、何でもない!と、とにかく兄さんはズルいんです!」
義之「あはははは…まぁ、そういうことにしておくよ。それじゃ、そろそろ帰るか?帰りに例のクレープ奢るからさ」
そう言うと兄さんは歩きだした。ずっと待ち焦がれていた景色がそこにはあって、私は幸せだなぁ~と思った。だから…
由夢「待ってよ!兄さん!」
そう叫ぶと、私は兄さんの腕に抱きついた。もう、離れたくなかったから…
それから私と兄さんは、色々寄り道をして帰った。会えなかった時間を、少しでも取り戻したかったから…。そして、最後に兄さんがあの大きい桜の前に行こうと言ったので、私は兄さんに付いて行くことにした。
桜の前に着き、私は桜を見上げながら呟いた。
由夢「綺麗…」
義之「そうだな」
由夢(きっと、この桜が私の願いを聞いてくれたのかも知れない…)
私は、不思議とそう思った。ふと、兄さんの方を見ると、兄さんは桜を見上げていた。
由夢(兄さんは、どう思ってるのかな?)
義之「なぁ、由夢。キス…するか?」
由夢「えっ?」
いきなりの言葉に私は思わず聞き返してしまった。
義之「キスするかって聞いたんだ」
由夢「えっ、あっ、え~と……うん」
私はしどろもどろになりながらもそう答えた。
義之「じゃ、いくぞ?」
由夢「うん」
ちゅっ、と兄さんの唇と軽く触れた。ほんの一瞬だけのキス…でも、そこには確かに兄さんの気持ちがあった。
義之「由夢、改めてただいま」
由夢「お帰りなさい、兄さん」
私はそう答えると、兄さんに微笑みかけた。正面で照れている兄さんを眺めつつ、私はこれから始まる幸せな日々を思い描いていた。忘れられない想い出と共に…
END
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