D.C.Ⅱ 二次創作ショートストーリー バレンタインSP ~特別編~「出会いの季節」

ジリリリリリリ―――カチッ。

朝。
窓から差し込む光に目を覚ます。

「ん……う~ん……そろそろ時間か」

布団から這い出ると、僕は眠い瞼を擦りながら制服の上着に
袖を通しながらいつもの様にリビングに降りる。
リビングに降りると、朝食と置手紙がしてある。

“暖めて食べて下さい 母より”

家は両親が共働きなので、これもいつもの事だった。

朝食を食べ終わると、自分の部屋に戻りカバンを手に取る。
そのまま、自分の部屋の扉を開けようとしたところで立ち止まる。

「あっ、アレを忘れるところだった!あぶないあぶない……」

今日はホワイトデー。男子が女子にお返しをする日。
僕は、昨日買ったプレゼントをある人に渡そうと思っている。
そのある人とは、朝倉音姫さん。
風見学園の生徒会長であり、僕の隣のクラスの女の子。
いつもあまり接点の無い僕だったけど、
ある日思い掛けない出会いがあった。
それは、今からちょうど一ヶ月前―――

「はぁ……今年も収穫はゼロ……だね」

バレンタインで誰からもチョコを貰えなかった僕は、
落ち込みながら夕日の差し込む風見学園の廊下を歩いていた。
下を向いて歩いていた為か、前方の注意を怠っていた。

ドンッ―――バサバサバサ~~~

「きゃっ」「わっ」

廊下の曲がり角で僕は何かとぶつかってしまった。
一瞬柔らかいものに触れた気がする。
僕の視線が最初に捕らえたのは白い何かだった。
その何かとは……その女の子の下着だった。
僕は見入りそうになる衝動をかぶりを振って頭の隅に追いやり、
慌てて周囲を確認すると、風見学園本校の制服を着た女の子が
尻餅をついていた。

「いたた~」

彼女は腰をさすりながら、周りを見渡す。

「す、すいません!ちょっとボーっとしてて……」

その視線が僕を捕らえた時、僕は慌てて謝った。

「こちらこそごめんなさい……私もちゃんと前見てなかったみたいです」

彼女は、そんな僕に直ぐに笑みを浮かべて許してくれた。

「すいません……それより怪我はないですか?」

そう言って手を差し伸べると、彼女はその手を取って立ち上がった。
見たところ大きな怪我はなさそうだ。
そして、あまり触れた事の無い女の子の手の柔らかさに驚いた。

「大丈夫ですよ……ありがとうございます」
「は、はい、怪我が無くて良かったです」

一段落したところで、周囲を見渡すと書類が散らばっている。
恐らくこれから提出しに行くところだったのだろう。
僕が無言で散らばった書類を集め始めると、目の前の彼女も少し遅れて拾い始めた。
拾うものがなくなると、僕は今まで集めた紙束を彼女に渡す。

「はい……これで全部ですか?」
「そう……みたいですね」

確認を取ると彼女は周りを見渡して、他に紙が落ちていないか確認して言った。

「ふぅ……良かったですよ」
「ありがとうございます。優しいんですね」

一安心する僕に、彼女は微笑を浮かべてお礼を言った。

「いやいや!ぶつかった僕が悪いんですし、そんな事無いですよ~」

あまり人に感謝されるのになれていなかったので、少し照れてしまった。

「ふふっ……そういう事言う人に限って自分では気付かないものですよ」
「う~ん……そうなんですか?」
「そうですよ」

そう言って彼女は、口元に手を当てて楽しそうに笑っていた。
その笑顔に少しドキッとした僕だったが、そんな僕に彼女は聞いてきた。

「ところで、さっきボーっとしてたって言ってましたけど、何か悩み事ですか?」
「えっ?あぁ、そんな大した事じゃないですけど……」
「良かったら話してみてくれませんか?」

彼女は真剣な顔つきになり、僕の悩みが何なのかを聞いてきた。
少し迷った僕だったけど、話す事にした。

「いや、今日ってバレンタインデーじゃないですか?」
「そうですね」
「今年も一個も貰えなくて……僕ってそんなに近寄り難いのかなって思ったんです」
「そうなんですか?私はそんな事無いと思いますけど……」

そう言って彼女は、しばらくあごに手を当てて考える仕草をすると、
思い立ったように僕に答えた。

「そうですね……1つ考えられるとすれば、少し控えめな所かも知れませんね」
「控えめなところ……ですか」
「それが悪いというわけでは無いんですけど……時には積極的になる事も必要なんですよね」
「せ、積極的に……ですか」

女の子と話すのが得意でない僕にとって難しい提案だったので、少し言葉に詰まってしまった。

「大丈夫ですよ、あなたなら。それに、女の子って話に付き合ってくれると嬉しかったりするんですよ」

彼女はそんな僕に対してにっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます。頑張ってみます」
「ふふっ……頑張って下さいね」

感謝の気持ちを込めてお礼を言うと、彼女は微笑みながら応援してくれた。

「ところで、その書類何処かに届ける途中だったりします?」

長く立ち話をしてしまったので、彼女に気になっている事を聞いてみた。
すると、彼女は少し慌てたように書類を見る。

「あっ、そうでした!これを学園長室に持って行く途中だったんですよね……」
「そうだったんですか……じゃ、僕も手伝いますよ」
「あっ、そんな……悪いですよ」

彼女の手にある紙束を持つと、彼女は申し訳なさそうに言った。

「気にしないで下さい……元々は僕が引き止めちゃった様なものですから」
「でも―――」
「それに、僕が一緒に行った方が遅れた理由にもなりますから」

彼女が更に断ろうとするのを言葉で制し、出来る限りの笑顔を僕は浮かべた。

「ふふっ……じゃあ、お言葉に甘えちゃいますね」

そう言った彼女の笑顔は、素直に可愛いと思った。

コンコンコン。

学園長室に着くと彼女は、軽く3回ノックした。

「失礼します。芳乃学園長いらっしゃいますか?」
「その声は……音姫ちゃんだね。どうぞー」
(音姫……ちゃん?)

学園長室に入ると、背の低い女性が出迎えてくれた。
式とか行事でよく見るけど、近くで見るとやっぱり子供っぽい。

「あの……失礼します」
「あれ?キミは……」

芳乃学園長が不思議な顔で僕を見ると、”音姫”と呼ばれた彼女が
これまでのいきさつを説明する。

「―――という訳なんですよ」
「へぇ~」

芳乃学園長は、ちょっと悪戯っぽい表情を浮かべて僕を見る。

「な、何でしょうか?」

近付いてくる芳乃学園長に少したじろぐ。
僕の隣まで来ると、芳乃学園長は小声で話す。

「音姫ちゃんの事気になってるの?」
「えっ」
「だから、音姫ちゃんの事好きなのって聞いたの」
「あ、会ったばかりですから……その……なんとも」

気にはなっていたけど、それをハッキリ言うのは恥ずかしくて
僕は誤魔化す事にした。

「ちょっと、芳乃学園長も……え~と……」

音姫さんが僕の名前が分からず、視線をさまよわせる。

「一蹴です」
「……一蹴くんも何の内緒話ですか?」

音姫さんがちょっと怪訝そうに僕たちを見る。

「別に~……何でもないよ~……ね?一蹴くん」
「はい……まぁ、その……そんな感じです」

僕は内容が内容なので、恥ずかしくて俯くしかなかった

「うぅ~…何か気になるなぁ」
「う~ん……音姫ちゃんが義之くんの世話をするのが好きっていう事話してたんだよね」

音姫さんが不満そうに呟くと、芳乃学園長が悪戯っぽく言った。

「さ、さくらさん!?初対面の人になんて話しているんですか!」
「良いじゃん良いじゃん!本当の事だもんね~」
「うぅ~……さくらさん、意地悪ですよ~」
「あはは!恥ずかしがる事は無いよ、音姫ちゃん」

芳乃学園長の言葉に赤くなって俯く彼女をやはり可愛いと思った僕だった。

「ところで、ちゃんとした紹介まだだったよね?」
「そうですね」
「あっ、そう言えば……」

ここに来てちゃんとした自己紹介がまだだった事に気付く。
芳乃学園長は、僕の目の前まで来ると小さい手を差し出して微笑んだ。

「もう知っていると思うけど……ボクは、風見学園の学園長の芳乃さくら。よろしくね、一蹴くん」
「はい。宜しくお願い致します」

僕も笑顔になって芳乃学園長と握手を交わす。
小さくて柔らかい感触のその手は、やはり子供のようだった。

「あはは!そんなにかしこまらなくて良いよ。ボクの事はさくらって呼んでね」
「えっ、それはまずいんじゃ……」
「良いの良いの。むしろそう呼んでくれないと返事しないからね」

むちゃくちゃな事を言っているけど、本人がそれを望むのならそうしようと思った。

「それじゃ、えっと……さくら……さん」
「うん、よろしくね。一蹴くん」

そう言ってさくらさんは、全く邪気の無い満面の笑みを向けてくれた。

「それで……こっちが、我が風見学園が誇る敏腕生徒会長の朝倉音姫ちゃんだよ」
「えっ?せ、生徒会長!?……さん?」

驚きを隠せない僕だったけど、おと―――朝倉さんの制服の二の腕の部分には
“生徒会”と書かれた腕章が付いていた。どうやら間違いないらしい。

「も、もぅ……さくらさん!」
「あはは!音姫ちゃんが怒った~」

朝倉さんをからかって笑っている芳乃学園長は、とても楽しそうだった。

「それじゃ、僕はそろそろ失礼致します」

書類も渡したので、そろそろ帰ろうかと思ってドアに手を掛ける。

「あっ、ちょっと待って!一蹴くん」
「なんですか?」

朝倉さんに呼び止められた。
朝倉さんは僕の前まで来ると、そっと耳打ちした。

「こ~れ」
「えっ?」

そう言って渡されたのは、小さな包み。

「これは……まさか……バレンタイン?」

僕が信じられないといった顔で見ると、朝倉さんはニコッと微笑んだ。

「うん、義理だけどね。あと、今日のお手伝いしてもらったお返しはまた今度ね」
「そんなっ、良いですよ。お礼をしてもらいたくて手伝った訳じゃないですし」

僕は恐縮してしまい、朝倉さんの好意をやんわりと断ろうとした。

「遠慮しないで?何か困った事があったら相談に乗るから」

心配そうな顔でそう言われてしまうと、流石に断れない。

「わかりました。朝倉さん」
「うん。あと、私の事は音姫で良いよ?友達からはそう呼ばれているから」
「えっ?でも―――」
「はい、これは決定事項です」

名前で呼ぶ事に抵抗を感じたので、断ろうと思ったのだけど、
朝倉さんは僕の言葉をさえぎり、えっへんと可愛らしく言った。
そんな姿に、逆らえない何かを感じた僕は従う事にした。

「えっと、じゃあ……音姫さん」
「はい、良く出来ました」

朝―――音姫さんがワザとらしく言って、楽しそうに微笑んだ。

「何だか恥ずかしいですね……女の子を名前で呼ぶのって」
「あはは~……私には”由夢ちゃん”っていう妹が居るから、それで……ね」
「そうだったんですか……」

女の子を名前で呼ぶという行為に少し照れながら言うと、
音姫さんは恥ずかしいような困ったようなそんな複雑な笑みを浮かべていた。

「それで……本当に何か困っている事とか無いの?」
「えっと……今の所はないですね」

真面目な顔になって聞いて来る音姫さんに、僕は申し訳無さそうに答えた。

「ちょっと、ちょっと~……ボクを無視して何の相談かなぁ~」

さくらさんが音姫さんの後から、不満そうに頬を膨らませていた。
音姫さんは、そんなさくらさんを困った様な笑みを浮かべてなだめていた。

「それじゃ、そろそろ失礼しますね。さくらさんも音姫さんもありがとうございました」
「またね~」
「うん、また今度ね。一蹴くん」

別れの挨拶をするとさくらさんも音姫さんも笑顔で見送ってくれた。

そんな出来事からちょうど一ヶ月たった今日、僕は音姫さんにバレンタインの
お返しをするべく、「勉強が分からないから教えて下さい」と言って、
放課後に教室で待ち合わせる事にしていた。

(今日の授業は、あまり身が入らなさそうだな~…)

今日の事を考えて、ニヤニヤしてしまう頬と格闘しながら学校に向かう僕だった。

放課後―――。
教室の仲間が居なくなった頃に、音姫さんは僕の教室に来てくれた。

「一蹴くん、待ったかな?」
「いいえ、ちょうど良かったですよ。他の仲間が居ると集中し辛いですから」
「そう?それなら良いんだけど……」

音姫さんは、僕の横の席の机を移動させて僕の机とくっ付けると椅子に腰を下ろした。
女の子特有の甘い香りがして、僕は少しドキドキした。

「それじゃ……始めよう?」
「はい、お願いします。音姫さん」
「ところで、一蹴くんは何を教えて欲しいの?」
「数学で少し分からないところがあって、それを教えて欲しいです」
「うん、良いよ」

それからしばらく、音姫さんに数学について教えてもらった。
音姫さんの説明はとても分かりやすく、僕でも簡単に理解する事が出来た。
気が付くと、結構時間が経っていたので、少し喉が渇いて来ていた。
音姫さんにも聞くと同様に喉が渇いたとの事だったので、僕は近くのコンビニまで
飲み物を買いに行く事にした。

「戻りましたよ~」
「あっ、一蹴くん……おかえりなさい」

教室に戻ると、音姫さんは教室の窓から外を眺めている様だった。
音姫さんは、僕に気付くと微笑みながら出迎えてくれた。

「何を眺めていたんですか?」

少し気になった僕は、音姫さんに聞いてみた。

「えっ、な、何でも無いよ?」

音姫さんは、少し取り繕ったように笑みを浮かべた。
その反応を以前にも見た気がして記憶の糸を辿ると、
ちょうど一ヶ月前のさくらさんと音姫さんとの会話を思い出した。

「もしかして、”義之くん”に関する事ですか?」
「えっ!?」

音姫さんは、ホントにビックリした様子で、僕を見ていた。

「当たり……みたいですね」
「あ、あはは~……」

音姫さんが、いたずらが見付かってしまった悪戯っ子の様に
ちょっと気まずそうに笑う。
そんな音姫さんがちょっと可愛く思えて、僕は微笑んだ。

「ははは……じゃ、今日はこの位にしましょうか?」
「えっ、でも―――」
「はい、これは決定事項です」

僕は音姫さんの言葉を遮り、いつかの音姫さんのモノマネをした。

「……」
「……」
「……ふ、ふふっ」
「……あははははっ」

しばらく唖然としていた音姫さんだったけど、急におかしくなったのか
笑い出したので、僕もつられて笑ってしまった。

「あっ、そうだ!」
「えっ?どうしたの?」

笑いが収まってきて冷静になると、大事な事を忘れているのに気付いた。

「これ、渡そうと思っていたんですよ」

そう言って朝持参したものを音姫さんに渡す。

「何かな?」

不思議そうに受け取る音姫さん。僕のプレゼントの意味を計りかねているようだ。

「この前バレンタイン貰っちゃったんで、そのお返しです」
「そんな……気を遣わなくて良いのに」
「僕の気持ちが許せないので、しっかりお返しさせて下さい」

そう言ってにっこりと微笑んだ僕に、音姫さんは嬉しそうに
“ありがとう”とお礼を言ってくれた。

「開けてみても良いかな?」
「どうぞ」

プレゼントを開けた音姫さんの顔がパァッと明るくなるのが
見て取れてとても嬉しかった。

「音姫さんが付けているリボンと同じ柄のハンカチです」
「ありがとう!でも、よく見つけたね?」
「女の子にプレゼントするの初めてで、何を選ぼうか迷っていた時に偶然雑貨屋さんで見つけたんです」
「そうなんだ……ありがとう、大切にするね?」

プレゼントを受け取った音姫さんは、とても嬉しそうに
そのハンカチをカバンにしまった。
最初は緊張したけど、その仕草にプレゼントして良かったなと思えた。

一段落着いたところで、音姫さんは家に帰るとの事だったので、
家が反対方向の僕は校門まで見送る事にした。

「今日はごめんね……また何かあったら何でも言ってね」
「はい、こちらこそありがとうございました。おかげで助かりましたよ」
「良かった……それじゃ、また今度ね」

音姫さんは、10歩程進んでからもう一度振り向くと、手を振ってくれた。
それに笑顔で応えて手を振り返すと、音姫さんは今度こそ自分の家に
帰って行った。

「さて、僕も帰ろッかな」

そう呟いた僕は、我が家に向かって足取りも軽く歩き出す。
この先どんな事があるか分からないけど、学園生活が楽しいものに
なって行く予感を感じていた僕だった。

fin.

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