D.C.Ⅱ 二次創作ショートストーリー バレンタインSP ~天枷美夏編~「美夏式バレンタイン」

深々と桜が舞っていた。
驚く程ゆったりと。
それはあまりにも綺麗すぎて。
俺はこれが夢だと認識する。
いつもの他人の夢。

辺りを見渡せば、見慣れた光景が映る。

(ここは………付属の校舎の屋上………か。)

そこに、独り佇む影。
夕日の赤一色と言って良い光景の中。
そこには風見学園付属の制服に身を包んだ女子生徒がいた。
それは良く見覚えのある、女の子。

(あれは………美夏………か?)

その女の子は、ゆっくりと振り返った。
しかし、そこで意識が覚醒して行く事に気付く。
徐々に覚醒していく意識の中で、俺を呼ぶ声が聞こえた。

「桜内―――」

ピピピピッピピピピッピッ―――カチッ!

朝。
目を覚ますと、俺はボーっとした頭で考えた。

「何であんな夢をみたんだろう………?」

しばし考えて1つの結論に当たる。

「まさか、俺が天枷を………?はは………そんなバカな」

苦笑気味にそんな事を呟きながらベッドから体を起すと、
ちょうど由夢が起しに来た所だった。

コンッコンッ!

「兄さ~ん?起きてますか?」

ノックの後、扉越しに由夢の声が聞こえる。俺は少し意地悪をしようと思い、
そのまま布団に包まって由夢が入って来るのを待った。

「兄さ~ん?………もぅ、まだ寝てるの~?朝御飯出来たよ~!」

コンッコンッコンッコンッ!

由夢は、少し苛立ち気味にドアを叩く。これもいつもの癖だ。
当然俺は聞こえない振りを決め込む。

「兄さ~ん?入るよ~!」

ガチャッ。

ドアノブを回し由夢が部屋に入ってくる。俺は、絶好の機会を伺いながら待つ。

「はぁ~………まだ寝てるし」

そう言っていつもの様に布団を揺すろうとする由夢に俺は急に飛び起きて叫んだ。

「ホアチャァァァァァァァァーーーーーー!!」
「ひゃうっ」

作戦通り由夢は驚いた様だった。しかし、それがいけなかった。

ドタッ―――

由夢は盛大に尻餅を付き、痛そうに腰をさすっていた。
しかし、今の由夢は制服姿でもちろんスカートを履いている。
その結果、スカートの中から白いものがちらりと覗いていた。
急いで目を背けようとするが、視線がどうしてもそちらに行ってしまう。
しょうがないじゃん、だって男の子だもん!

「もぅ………何なの?」

不満そうに見上げる由夢と俺の視線が合う。

「あ、あはは………」
「?」

由夢は苦笑いする俺を見て不思議そうな顔をしていたが、
徐々に事態を把握し始めると、急いでスカートの裾を引っ張り、
白いものを隠すと、真っ赤な顔で恨めしそうに俺を睨んできた。

「にいさ~ん?」

由夢がゆらりと立ち上がる。

「ちょ、ちょっとタンマ!話し合おうじゃないか!な?由夢」
「問答無用ですよ、兄さん」

語尾に♪マークが付きそうな程可愛いらしい声だったが、
顔に貼り付けた笑顔には修羅の幻影が見えた気がした。

————————————————-
拝啓 神様

天国の後には地獄が待っていました………

by 桜内義之
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そんな置手紙を残したくなる様な瞬間が訪れたのだった。

リビングに降りると、音姉が朝食の支度をしていて、
由夢はこたつに座ってテレビを見ていた。

「おはよ~」
「おはよう………ってどうしたのその顔!?」

音姉が驚いて、お玉を鍋に放ってこっちに走って来た。

「いやぁ………ちょっと可愛い妖精さんの悪戯がね………ははは」

そう言って由夢を見ると、由夢は「ふんっ」とそっぽを向いた。

「大変!手当てしないと………ちょっと待ってて?弟くん」

音姉は慌てた様に言うと、急いで救急箱を取りに行った。

「弟くん、大丈夫?」
「あっ、うん、大丈夫」
「良かった………」

俺の傷口に消毒綿を当てながら、ほっとした様に微笑んだ。
その笑顔が天使に思えた俺は………

————————————————-
拝啓 神様

地獄の中にも天使が居ました………

by 桜内義之
————————————————-

という置手紙を残そうと思った。

登校中。
由夢は、”放課後に天枷さんが兄さん用事があるらしいから帰らないで下さいね”
と不機嫌そうに伝言して小さな手紙を渡すと、さっさと先に行ってしまった。

(天枷が………俺に?)

俺は、色々考えてみたが特に思い当たる節は無かったので気にしない事にした。

昼休み。
いつも通り購買にパンを買いに行こうとすると、由夢が教室の扉の所で
待っている事に気付いた。
近付いて声を掛けると、「ちょっと話があるからこっちに来て」と言って腕を引っ張られた。
由夢に付いて行くと、そこは保健室だった。由夢は、俺の手を離すとこちらに向き直った。

「兄さん、今日が何の日か分かる?」
「何の日って………何かあったっけか?」

由夢からの急な問いかけに俺は思考を巡らせたが、特に思い当たる節は無かった。

「バレンタインデーですよ」
「あっ、そう言えば………」

答えを言われて気付く。そう言えば今日だったか………

「もぅっ、ホント鈍感なんですから………」
「すまん………」

心底呆れたような顔の由夢に今日のところは素直に謝ることにした。

「まぁ、兄さんの鈍さは今に始まった事じゃないですし」

由夢は呆れたような笑顔をしながら言って、俺に小さな包みを渡してくる。

「これは?」
「もちろん、兄さんへのプレゼントです」
「え~と………」

遠慮がちに”手作り”かどうか聞こうとしたが、由夢は先の答えを見越してか
つまらなそうな顔をして言った。

「………安心して下さい。今回のは、お店で買ったものですから」
「ま、まだ何も言って無いだろ?」
「その位分かりますよ………何年の付き合いだと思ってるんですか」
「あはは………」

ズバリ言い当てられてしまった俺は、苦笑いするしかなかった。

「お返し………期待してますからね」
「うっ………気が重いなぁ」

由夢は別れ際にボソッと爆弾発言をして保健室を出て行ってしまった。
お返しの事を考えるとため息しか出なかった。

放課後―――。
俺は、授業中に寝ていたらしく、気が付けば周りには誰も居なかった。
窓から外を見ると夕日は燃える様に赤く、世界の全てをオレンジ色に染めている。

「もう、こんな時間か………って、あぁ!!」

天枷との約束をすっかり忘れていた事に気付き、大声をあげる。
急いで由夢から預かった手紙を見ると、毛筆の様なもので文頭に”果し状”
その下に”放課後直ぐに屋上に来て欲しい”と書いてあったので、それに従う事にした。
屋上への階段を駆け上がり、扉を開け放つとオレンジ色の景色が広がった。
そして、そのオレンジ色の景色の中、1人の少女がフェンス越しに
立っていた。

「よっ、天枷!待ったか?」
「遅いぞ、桜内」

大分遅れてしまった俺に、天枷は不機嫌そうに言う。

「悪い悪い………帰りに何か奢ってやるよ」
「当然だ」

そういう天枷の顔には、もう不機嫌な表情は無かった。

「ところで、果し状って何なんだ?俺と決闘でもするのか?」
「決闘などするつもりは無い。美夏は桜内に用があったから呼び出したのだ」

疑問を口にすると、天枷は不思議そうな顔をして言った。

「あのな………そういう時は、普通”果し状”とは書かないんだよ」

俺はこめかみに手を当て、正しい呼び出し方を説明した。
しかし、天枷はイマイチ納得出来ない表情で言った。

「呼び出す時には、そうするんだって芳乃学園長に聞いたんだが………」
「いや、別に普通に”屋上で待ってます”で良いと思うけど」
「そうなのか?」

本当に不思議そうに聞いて来る天枷に俺は何も言えなくなってしまった。

「ところで、今日は何の用?」

一向に話が進みそうに無かったので、先を促す事にする。
すると、天枷は改まった様に言った。

「そ、それなんだが………桜内に渡したいものが、あってな………」

急にしどろもどろになる天枷。
いつもの天枷らしくない態度に俺は疑問を投げかける。

「どうしたんだよ?急に………」
「その………今日は、バレンタインデーという日らしいんだが………」
「あっ、そう言えばそうだったな………」

由夢の恐怖の言葉に、思い切り脳が忘れろと命令していた為に
すっかり忘れていた。

「それで………美夏も折角だからこのイベントに参加しようと思ったのだ」
「なるほど………それで、何で俺に?」
「さ、桜内は美夏の中で唯一の”男友達”だろ?」

一瞬頷きかけたが、俺の頭に悪友2人の顔が思い起される。

「あれ?渉や杉並は?」
「杉並は、良く分からんし………板橋は………アレだからな」
「ははは………」

天枷のハッキリとした物言いに、俺は苦笑した。

「それで、受け取ってくれるのか?桜内」
「本当に俺で良いの?」
「何度も言わせるな………美夏は桜内に渡したいのだ」

そう話す天枷の顔は赤く火照っていて、視線を逸らしながらも
横目で確認している様子は素直に可愛いと思った。

「分かった。それじゃ、遠慮なく貰っておくよ。ありがとうな、天枷」
「れ、礼には及ばない」
「早速食べていいかな?」
「いいぞ、その為に作ったんだからな」

その答えに、俺は包みに手を掛けようとして止まる。

「えっ?手作りなの!?」
「そ、そうだが………何か問題でもあったか?」
「いや………ちょっと………ね。ははは………」

由夢の手作りの料理の所為で、若干女の子の手作りがトラウマになって
いた俺は、手作りと聞いて思わず苦笑いしてしまった。

(しかし、天枷が手作りね………)

顔をチョコレートまみれにして台所に立ち、悪戦苦闘している微笑ましい
姿を想像した俺は、一口食べてみる事にした。

「………ど、どうだ?」

天枷が心配そうに俺の顔を覗き込むが、俺はもう一口放り込むと
笑顔になって言った。

「うん、美味いよコレ」

そう言って2口3口と放り込むうちに、チョコレートはあっという間に
俺の胃袋に消えていった。
最後のひと口を放りこむと天枷は安心したような表情をして言った。

「桜内………ありがとう」
「何言ってるんだ?お礼を言うのは俺の方だって。ありがとな………天枷」

そう言って微笑むと、天枷も同様に気持ちの良い微笑を浮かべていた。
天枷は、フェンスの方に歩いて行くと網に手を掛けてグランドを見下ろす。

「桜内………覚えているか?出逢った時の事」

天枷は、グランドを見下ろしたまま問い掛けてきた。
そんな天枷に俺は、意地悪な笑顔で答える。

「もちろん、忘れるはずが無いだろ?なんたってキツイ一発だったからな」
「あ、あれは、その、何だ………あの時は美夏も人間嫌いだったからな」
「はははっ、分かってる。ちょっとした冗談だよ」
「意地悪だぞ、桜内」
「でも、俺は天枷と出逢って良かったと思っているよ」
「美夏もだ………桜内や由夢達に出逢わなかったらきっと人間嫌いのままだったと思う」

天枷は、ちょっと恥ずかしそうにしながらもきっぱりと言い切った。

「そっか………それは良かった」

感慨深い気持ちになり、少しボーッとしていた俺に意を決したように天枷が言う。

「桜内………美夏は………好きだ」
「へっ?」

俺の頭の中で思考回路が停止する。
それは、短いようで長い一瞬。
天枷がゆっくりこちらを向き、笑顔を浮かべる。

「桜内、美夏は桜内の事が好きかも知れない………1人の男として」
「………」

唐突な天枷の言葉に何も言えないまま俺は固まっていた。
天枷はそんな俺の態度を拒絶と取ったのか、自嘲的な笑みを浮かべる。

「ハハハ………いきなり言われても困るよな………」
「そ、そんなことっ―――」

慌てて否定しようとするが、天枷はそれを遮って言う。

「大丈夫だ………実は、美夏も心の準備が出来ていないのだ」
「そ、そうなのか」
「だから、まずは友人からって言うのはどうだろう?」

天枷の提案に、俺は少し考えてから答える。

「………わかった。じゃ、取りあえず呼び方を変えないとな」
「呼び方?」
「そうだ………友達なら他人行儀な呼び方は辞めよう」
「分かった」
「俺の事は、義之で良いよ」
「じゃぁ、美夏も美夏で構わないぞ」

そう言って笑う美夏は、もうあの時の美夏には無い人懐っこい笑顔を浮かべた。
その美夏の笑顔に、俺は不覚ながらドキドキしていた。

「ほら、義之………一緒に帰るぞ」
「あ、あぁ」

美夏の後を追いかけながら、俺はこの関係が進展するのにはそう時間は
掛からないだろうと思ったのだった。

fin.

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